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あるアイデア

そのアイデアを思いついたのは、1995年の春か夏か早秋のこと だった。たまたま手にしたNifty-Servegifの情報誌に、「アンケート サービス開始:名簿から無作為抽出したNifty-Serve会員を対 象にして電子メールによるアンケートサービスを行います。…」 というような内容の記事gifを見つけたのだ。

なるほど、そうか。世の中にはいろいろな調査があるけど、こ ういうやりかたもあるんだ。でも、Niftyの会員だけに限られ るから「無作為抽出の社会調査」というわけにはいかないだろ うけどなぁ。それにだいたい、Niftyの会員といったって、僕 みたいに一応登録しているだけで、mailを使っていない人だっ ているだろうし、そういうmailを受け取っても、よっぽどmail に馴染んでいなければなかなか回答する気にはなれないだろう しなぁ。きっと、回収率はそうとう低くなるだろうなぁ。いや、 待てよ。ということは、これに回答する人たちは、「コンピュー タおたく」とまでは行かなくても少なくとも「コンピュータを 生活の一部として取り込んでいる人たち」だろうから、「本当の 無作為抽出」の結果と比較すると、この手の人たちの特徴を浮 かび上がらせることができるかもしれないぞ。そうだよ。これ からはだんだんとコンピュータなしでは仕事ができなくなって きて、日常生活でコンピュータに関わらなければいけない人の 数も増えてくるだろうから、そいういう「適応者」たちの先進 事例としてこのNiftyアンケート回答者を位置づけることがで きるかもしれないぞ。

そうだ、これはいい。こういう集団がどういう健康観を持ち、 「運動/スポーツ」という「健康増進メッセージ」をどれだけ 真に受けて実践するのかということがわかれば、アメリカの Healthy People 2000なんかの啓蒙活動の効果を予測すること ができるかもしれないし、だいたい「インターネット時代」に は求められる健康観が今とは決定的に異なるかも知れないのだ。 そうだ、これは「Health Problem in Information SuperHighway Era」としてScienceに出そう。うんうん、アメ リカならこういう問題提起を評価してくれるかも知れない。

問題は何だ?まず、どういう「設問」を立てるかが勝負だな。 なにしろ、この手の調査は全く経験がないし、従来の「健康観/ 運動嗜好」に関する調査を踏まえて「問いかけるべき問題点」 を探らなければならないしなぁ。こういう調査については○○ 先生が唯一の頼りだけど、単に社会調査の技術的な問題と言う わけではないから、僕と問題意識を共有してくれそうな健康問 題の研究者の協力があればいいんだけど。結局は、どれだけ信 頼できるデータが得られるかが鍵だからなぁ。次の問題はお金 だな。現状では早稲田大学特定課題研究は望み薄だし、明治生 命の助成なら通る可能性は結構あるだろうけど、もしそれに採 用されて100万円もらってもそれだけではNiftyのアンケート代 ぐらいにしかならないから、科研費などの他の助成が得られな ければ中途半端な研究になってしまうからなぁ。う〜ん、でも とりあえず数十万規模の研究費ででも、実績を積まないとなか なか大きな研究費にはならないだろうからな。

結局の所、企画の面でも研究費の面でも、そう簡単にはことは 運ばなさそうだったのだが、なによりも大きな壁は、翌年(96 年)の秋から一年間、在外研究に行くことが決まったことだっ た。もちろん私にとっては嬉しいイベントなのだが、ジョージ アに行くことが決まっているのにそれまでの半年か一年の間に 新たな研究課題を申請して研究を完遂させるなんて事は、いく らなんでも無謀なことだった。その準備も含めれば一年以上も 時間がとぎれるわけだから、なんらかの「共同研究」を放置し てアメリカに行ってしまうわけにはいかないだろう。

と、いうわけで、そのアイデアは、空想計画の段階でお蔵入り となってしまったのである。



Yoshio Nakamura
Mon Dec 27 10:02:29 JST 1999