まず、今回回答いただいた方々の中で、「電子データベースに よる文献検索(以下、電子文献検索)」をしたことがない人が 3名いた。この中には、文献検索が不要な分野の研究者もいた し、運動生理学の分野のリーダとして活躍している方もいた。 極めて少数の回答であったとはいえ、前述の回答不能者の事情 も含めて想像すると、体育・スポーツ科学の研究の全てで「イ ンターネットによる文献検索」が必要なわけではなく、また、 運動生理学などの自然科学的分野であったとしても、「それな くしては優れた研究ができない」というわけでもないというこ とを、伺い知ることができた。
次に、電子文献検索の経験者37名の回答を集計すると、電子検 索を利用する以前にキーワード検索をした経験を持つ者が25名 (68%)であり、電子検索しか利用したことがない者が12名であっ た。前者に対してその利用状況の変化を問いかけたところ、電 子検索を利用するようになって「検索頻度が増えた」と回答し た者は15名(60%)であったが、「取得文献数」では「増えた」 が10名(40%)で「変わらない」が14名(56%)、「講読時間」で は「増えた」はわずかに3名(12%)であり、ほとんど(84%)は 「変わらない」と回答している。つまり、研究生活の中に電子 文献検索が導入されて検索が便利になって取得文献数が増えた といっても、その「文献」を読む時間が増えているわけではな いという一見当たり前の結果が確認されたと言うわけである。 しかし、この一見あたりまえの結果は、良く考えると、重要な 問題を含んでいるように思う。前回(8月号)述べたように、 自然科学系の標準的な分野における論文一件あたりのページ数 (分量)が増大傾向にあるわけであるから、「論文読解能力」 が改善されない限りは、一件あたりの論文から得る情報が少な くなっている(つまり、うすっぺらにしか読解されなくなって いく)傾向にあるということを意味するからである。
さて、対象を元に戻して、電子データベースへのアクセス頻度
(問2)を集計すると図1の様になり、月に1〜3回(中央値は
2回/月)というのが標準的な姿であるという結果となった。
先に述べたように、無理矢理の数値化を強要した今回の結果は
「実態」というよりも「期待」あるいは「予想」を含んだもの
とみなすべきであり、標準的な電子探索の実態(中央値)はせ
いぜい月に1〜2回ということなのかもしれない。また、問6
(講読時間)は、週に2時間(7名)、5時間(7名)、10時間(9名)
という回答合計が過半を占めた(中央値は5時間/週)。ちな
みに、6月の私の行動記録をみると、文献講読に費やした時間
は合計10時間(週あたり2.5時間)であった。こちら(ジョー
ジア大学)では雑用もなくふんだんに論文を読んだように感じ
ていたのだが、いざ集計してみると意外と少なかった
。だから、各自の「感じ」に
基づいた週あたり5時間という中央値は、実態よりはいくぶん
多いのだろう。
ところで、問3〜問5は、絶対値としては信頼性の低いもので はあっても、その相対値、例えば、どの程度「電子文献検索」 に頼っているかということと[問3/問4]については、各自 の実感をかなり反映するものと言えるだろう。そこで、問3/ 問4の比率を見ると、それが1(両者で同等)のものが9名 (24%)で、1以下(物理的情報の方が多い)および1以上(電 子情報の方が多い)がそれぞれ14名(37%)、15名(39%)とほぼ 同数だった。これらの対象者は前回の「電子メール」のアンケー トに回答した方に限られており、電子メールの利用が日常に組 み入れられている人々だといえるが、電子メールを抵抗なく利 用するからといって必ずしも電子文献検索に頼るようになるわ けではないということが示唆された。実際、前回のアンケート 結果の解析において鍵となった変数である、電子メール利用歴、 一日の送受信件数、所要時間については、上記の電子情報依存 比とは無相関であった。