さて、前号で私は、「ホームページを利用したデータ公開」に ついて触れながら、「じつのところ私はやったことがない」と 述べた。本当の所は、ジョージアでの暇に任せていろいろな可 能性を模索しながら、「ホームページによるデータ公開」を考 えたことがあった。なにしろ、いずれもUNIX上のコマンド一つ で実施できることであるから、前号で記した「README」という ファイルの中にそのコマンドを入れておけば済むのである。い ちいち、一つ一つの図表を紙に印刷するよりは、最新の結果が インターネットブラウザでみることができれば、資源の節約に もなる。ところが、もしそれが「学術雑誌への掲載」を目指し て行った実験結果であるのだとしたら、インターネット上でそ のデータを公開するわけにはいかなくなる。きちんとした論文 に仕上げるために不特定多数の研究者からの批判や意見を仰ぎ たいと思ったとしても、それは結果的に「論文発表」の途を閉 ざしてしまうことになるのだ。
もちろん、仲間内だけで論議するための「回覧」ならば「既発 表」とはみなされないようなので、URLを公開しないとか、そ のページへのアクセスにはパスワードを必要にする、といった 対処を行えば、論文発表に際しても問題はなくなるようだ。し かし、「仲間内」以外には無価値に等しい私ごときの実験デー タなどを、仰々しく「パスワード付き」で公表するなんてこと は、およそばかばかしいし、これでは如何にもむなしい。そう いうわけで、私は、「データ公開」をあきらめたのだ。
結局、既存の「学術誌」というメディアを取るのか、それとも
「インターネット」という新しい可能性に賭けるのか。自分の
データを多くの人に見てもらいたいという科学者は、最初の一
歩からどちらか選択するか決めなければならないのだ
。そして私は、どちらに賭けるわけでもな
く、優柔不断な研究生活を続けていくのである。