ところで、1994年12月に、三重大学医学部のコンピュータ上で、
「インターネット生物・医学国際学会」が開催された。その概
要は日本ME学会の機関誌に掲載されている(村瀬、1996)
。海外
12カ国からの38の演題を含めて合計153の演題が「発表」され
たが、実際に人が旅行したわけではなく、場所や時間の制約を
受けずに安価に行うことができたとのことである。最終的には
世界32カ国から7万件以上のアクセスがあり、「居ながらにし
て国際会議に出席した」という実感を与えたようである。でも、
これはいったい「学会」なのだろうかそれとも「インターネッ
ト上の発表」なのだろうか。
インターネット上での「学会」が、「学会大会」とされるべき
か「出版」とされるべきかという議論は無意味である。つまり、
これは学術交流のための新しいメディアなのであり、既存のメ
ディアが達成できなかった新たな可能性を提供するものだから
である。しかし、上記の報告の中でも指摘されていることだが、
この学会はNEJMの受理基準に抵触する。つまり、この学会で
「発表」されたものは、NEJM誌には受理されない可能性がある
のだ。じっさいのところは、演者の了解を得られたものだけを
「Proceedings」としてインターネット上に公開を続けている
との事であり、その11日間の大会期間中だけ「掲示」された
「ポスター」論文については、既存の学術誌への投稿が拒否さ
れたというような事例はなかったものと推測される。しかし、
「インターネットという効率的な情報交換の場が現れたにもか
かわらず、権威の方は紙の雑誌に残っているという矛盾」
は残っている。