でも、LaTeXにも欠点はある。第一に、入手しにくいことだ。
自分の机上のパソコンからLaTeXが使えるようになっている人
は幸せだ。だれかがそのネットワークのサーバーにインストー
ルしているのだろうから。でも、全てのUNIXマシンにLaTeXが
インストールされているわけではないから、入れて欲しいと思っ
たらその管理者にお願いしなければならない。しかし、一般の
UNIX利用者はあくまでも「利用」できるだけであるから、特別
のソフトを入れて欲しいという要望は受け入れてもらえないこ
とも多い。Mac版やWindows版もあるから自分で買うことも勧め
られるが、どこで入手できるかは定かではない。
第二の欠点は、馴染みにくいことだ。なにしろ、画面に入力し
た通りに印刷されるわけではないから、希望する印刷結果を生
成するコマンド体系を理解するまでに相当時間がかかる。例え
ば、LaTeXの特殊記号である「\
」が含まれている時な
どは、「\chapter{}
」と書くために、わざわざ
「\verb+\chapter{}+
」と記さなければならない。じっ
さい、コマンドの入力ミスなどがあると、コンパイルの途中で
止まってしまって、なにも出力されないのである。ある程度に
使えるようになるまでにかなりの時間を必要とするというので
は、既存のワープロを使いこなして文書作成に追われる人々に
とっては、なかなか手を出せない。
第三の欠点として、(どうでも良いことだが)スペルチェック
機能が劣ることがあげられる。もちろん、できないわけではな
いが、Macのように「ツール---スペルチェック」をクリックす
ると始まるというような手軽さはない。また、MS-Wordのよう
に、文書入力中に「teh」が「the」と変換されるような機能も
ない。
このように、いくつかの欠点を持つものの、それでも一度馴染 んでしまうと、そのコマンドをさらに深く使いこなすためにも、 また、覚えたコマンドを空で使えるように維持するためにも、 いつもいつも使い続けていることが得策で、概念の全く異なる 「普通のワープロ」にはなかなか立ち戻れないのである。かく して私は、この連載原稿をLaTeXで執筆し、その印刷結果を目 にすることなく「インターネット」を使って山本君に送付して 杏林書院に入稿するという、手間のかかる作業を甘受している のである。