本研究で検証しようとしている仮説は、1)インターネット適応 者は運動実施頻度・時間が少なく、2)しかも、運動実践に対す る動機・意欲が低いのみならず、3)健康増進のための運動実践 の必要性の認識が乏しい、ということである。そもそもコンピュー タを使用するためには座位を維持しなければならず、それだけ でも身体活動量が少なくなる。それに加えて、ネットワークに 結ばれたコンピュータの高頻度利用者は、対人的なコミュニケー ションをコンピュータに依存する程度が高まることが予想され、 それがさらなる身体不活動をもたらすとともに、通常とは異な る健康観を抱くようになる可能性もある。
今後は、コンピュータネットワークの拡張と普及に伴い、多く の人々がコンピュータを生活の一部として取り込むようになる ことが予想され、それが新たな健康問題を生起させる可能性も ある。本研究で得られた「適応者」の特徴はあくまでも現時点 のものであるが、それは同時に将来のコンピュータ依存社会に おける人々の健康観や行動規範を予測する資料となることが期 待できる。
今世紀後半に提起された運動不足病という概念は、エネルギー 消費量によって定められる身体活動量の増大を、疾病予防・健 康維持の手法として位置づけ、「健康増進運動」というパラダ イムを成立させた。インターネットがますます普及する来世紀 にもまだなおこのパラダイムが同じく重要性を保つのか、ある いはその概念には修正や改変が迫られるのか、を占う意味で、 本研究の意義は大きいものと考えられる。