さて、またまた机の電話が鳴った。
渡米前の諸事に追われていた頃だった のでなるべく電話に出ないようにしていたのだが、魔が差した ように受話器を上げてしまった。杏林書院の市村さんからだっ た。「体育学研究における情報処理」という内容で連載を企画 しているとのこと。「『情報』っていったい何のことですか」 なんていう問いは無用だった。数分のやりとりの後、とりあえ ず「考えさせてもらう」こととした。もちろん、キーワードは 「体育学研究」と「情報処理」である。
もとよりその発案者は本誌編集委員の中でも最年長の方だった
ようなので、おそらく「情報処理」といっても私がイメージす
るものとは異なっているのではないだろうか。ここのところが
最も慎重に考えるべき事項だった。つまり、編集者の意図とは
無関係に勝手に突っ走った意見を書いてしまうような若さが、
今の私には薄れてしまったからだ。もしかしたら、彼にとって
「情報」とは「数字などの研究データ」のことで、「処理」と
は「コンピュータを使って行う何か」のことかもしれない。そ
うすると、「如何に手際よくデータを収集・処理して、如何な
る統計処理を行い、それを如何に論文に仕上げていくか」とい
うノウハウが、「情報処理」かもしれないのである。もしかし
たら、単に「コンピュータの使い方」だけを意図しているかも
しれないのだ。いやいや、この先生がそんな浅はかな方ではな
いということは、私は良く知っている。じゃあいったい私に何
を期待しているのか?